しかし、日本のサッカーが抱えている大きな障害がある。それは厳しい上下関係だ。日本の人口が約1億3000万人であることを考えれば、その状況は理解し得るものだ。確固とした上下関係がなければ、日常生活のすべてがスムーズに機能することは難しいだろう。しかし、サッカーにおいてはこの考え方はひとつのバリケードでしかない。Jリーグのクラブを指揮する監督の多くは、ヨーロッパ出身であったり、ヨーロッパでコーチングを学んだ人材だが、彼ら全員が共通してこの点で苦戦している。事実、日本人選手はその性格上、一人ではなにも決定してはならない。「誰かに確認する前にはなにもするな！」と頭の中に働くブレーキがあり、これはメンタルブレーキとでも呼ぶべきか。選手たちはピッチ上で抜群の連携を見せていても、一人で何らかのアクションを起こしたり、フィニッシュまで持って行くという、大きな個人的責任を担う場面になると、彼らはまず監督の許可を得たがっていると私はいつも感じる。このピッチ上の行動様式はこの国での日常を反映するものだ。このように機能しているのが日本社会なのである。誰もが常に口を挟もうとすれば共同生活は難しいというわけだが、サッカーにとっては非常に残念というしかない。なぜなら、サッカーはインプロヴィゼーション（即興性）が命だからだ。

ゲラルト・エンツィンガー、トム・ホーファー「イビチャ・オシムの真実」（エンターブレイン）より