一本の線を引き
けじめが舞っていく
ものの哀れ
蝶のように折り重なり
自らの肉体に横たわる
原文のままの
解読された山脈は
連なりを持って字となし
字は風に舞って
すべての心に甦る
それがどんな立場であれ
社会であれ
言葉となって現れる
その不可思議な過去を
問い詰めるまでもない
只、呆然と
突っ張った身体をまさぐり合っている
その黒々とした逞しさ、力強さ
そんな独善は一向に許されない高みにあり
向こう岸を白い彼岸と読誦すれば
それは正しくもあり、不明瞭とも言え
思い出しながら書き出してく
小さな夏の面影であり
詩は字のように尊大である
それが生きる源となり
それを錯覚であると言うならば言え
それこそがすべての源にあり
冷静な昼下がりを装う
血に飢えた群狼の叫びであり
表現の一切のわずらわしさから開放され
海の藻屑となるまで
意味の中の意味に心底惚れ込んでいる
このひとつの塊を「塊」と言えないもどかしさの渦中にあり
引いては寄せ、寄せ手は引く白い彼岸へと
捏造したイメージの水底から
無意識の病理が見え隠れするが
文章にコストは要らない
必要なものは運命だけだ
ただし、運命には定めの星があり
星は只、星らしく輝いて
われらを忘却の銀河へと誘うが
とりたてて取り繕うほどの
惨めさもなく
只、ひとつであることを泣くのだ
なぜ泣きたいのかわからないほどに
存在とはかくも無残であり
古の人々が書き残した書物の中で
あらゆる無力の存在を問う扉絵に幻惑された
あの小さな夏をつれて
冷たい土の中
埋まりながら
黄色く光る目
そう見えた
そう見えた
誰が
おまえが
地下に
埋まっている
振り返ることはできない
静かな朝
そこから次の朝まで
数千年、そこにいる
現代の言葉
聞こえない
別言語
空が欲しい
でも、空という意味を知らない
まったく身動きのとれない場所
諍いのない場所
場所によって、何者かであるということを感覚する
光の届かない場所でも、そこに私が、あるということにも一定
知る
黄色く光るその目の向いた先が
きわめて近しい場所でしか
一定を感じることができない
きまりの中から、きまりを知って行く
燃えつきることも、凍りつくこともない。
接続している。
身長70センチ、体重32キロ。
その大きさも、重さも、見当がつかない
形がない
ある、大きな常識にとらわれる
感覚しかない世界
新しさも古さも、知らない
色も、匂いも、知らない
言葉を知らない
何も覚えていない
あるということだけを知っている
ないという言葉を知らない
わからないということも知らない
魂
野放しの世界
区分、区別のない
きわめて古い環境。
何も覚えていない
堆積している
あるということだけが安定している
土に帰りたい
帰りたいという気持ちがない
気持ちがない
戻る場所がない。
あるということだけが安定している。
場所がない。
何もない。
あるということだけが安定している。
何も覚えていない
失うことがない
接続している。
生き物を知らない。
言葉を知らない。
始まりも終わりも、知らない。
あるということだけが安定している。
ここだけ
あるということだけが分かる。
何も感じない。
言葉を知らない。
産まれる前に帰りたい。
産まれる前に帰りたい。
疑問。
言葉を知らない。
堆積している。
何も変わらない。
言葉を知らない。
言葉を知らない。
人間とは違う生き物が
寄り付かない模様がある
体感的なことしかわたしたちには言えない
わたしたちという「種」には言えない
悩ましいほど思考的だが
模様ほど斬新ではない
(「土偶」習作 2004年)